団信付き不動産がある場合の相続放棄の注意点〜ローンが消えるなら得と単純に考えてはいけない理由〜

相続・遺贈

1 ローンが消えるなら得と単純に考えてはいけない理由

被相続人が投資用不動産や自宅を所有していた場合、「団体信用生命保険(以下「団信」といいます。)」が付いているケースがあります。

この場合、「死亡によって住宅ローンが完済されるなら、資産だけ残るのではないか。」と考える方も少なくありません。

もっとも、実際には、相続放棄との関係で注意すべき点が多数あります。

特に、不動産投資をしていた方が亡くなった場合には、団信が付いている不動産と付いていない借入が混在していることも多く、安易に判断すると大きな不利益を受ける可能性があります。

今回は、団信付き不動産がある場合の相続放棄について、実務上の注意点を解説します。

2 団信とは何か

団信とは、金融機関が住宅ローンの融資実行時において、借入人(債務者)を被保険者、貸付金融機関を保険金受取人かつ債権者とする形態で締結される生命保険契約の一種です。

たとえば、住宅ローン契約者が死亡すると、保険会社が金融機関へ保険金を支払い、残っていたローン債務が消滅し、その結果、不動産だけが残ることが残ります。

3 相続放棄をすると不動産も取得できない

相続放棄をすると、法律上、最初から相続人ではなかったという扱いになります。

民法939条は、次のとおり定めています。

「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。」

そのため、相続放棄をすると、債務を引き継がずに済む一方、不動産などのプラス財産も一切取得できません。

したがって、

・ローンは団信で消えるので、不動産だけ相続したい
・他の借金は放棄したい

という都合のよい選択はできず、

・プラスの財産もマイナスの財産もすべて相続するか

・プラスの財産もマナスの財産も一切相続しないか

のいずれかということになります。

4 団信があるから放棄しない方が得とは限らない

実務上、最も危険なのは、団信付き不動産があるから、相続した方が得と早合点してしまうケースです。

たとえば、次のようなケースは珍しくありません。

・投資用不動産に団信付きローンがある
・しかし、別の事業資金借入が数千万円存在する
・税金滞納がある
・消費者金融からの借入がある
・連帯保証債務がある
・修繕費や管理費滞納がある

このような場合、不動産だけを見ると利益が出そうに見えても、全体としては大幅な債務超過である可能性があります。

また、投資用不動産の場合、

・空室リスク
・老朽化
・家賃滞納
・サブリース問題
・売却困難

などの問題を抱えていることも少なくありません。

そのため、団信が付いているという一点だけで判断するのは極めて危険です。

5 特に投資用不動産は慎重な調査が必要

投資用不動産では、次のような問題が非常によくあります。

 団信が付いていないローンが存在する

不動産投資では、

・1棟目には団信あり
・2棟目には団信なし

というケースがあります。

そのため、一部の借入だけしか消えないという状況も多くあります。

⑵ 不動産の実価値が低い

不動産会社の販売価格と、実際に売却できる価格は一致しません。

特に地方物件やワンルーム投資では、

・売却すると大幅赤字
・管理費等の負担だけ残る
・買い手が付かない

というケースもあります。

6 相続放棄を検討する場合は全体調査が重要

相続放棄をするか否かは、一つの不動産だけを見て判断してはいけません。

最低限、次の調査は必要です。

・不動産登記の確認
・ローン残高確認
・団信加入有無の確認
・固定資産評価証明書の取得
・賃貸借契約の確認
・預貯金調査
・税金滞納の有無
・連帯保証の有無など

特に、不動産投資をしていた方の場合、後から新たな債務が発覚するということが非常に多いため、慎重な調査が不可欠です。

金融機関への照会、不動産資料の収集、保証関係の確認、賃料状況の調査などには時間がかかる上、被相続人本人しか把握していなかった借入や保証債務が後から判明するケースもあります。

7 熟慮期間伸長の申立てを検討すべき場合がある

民法915条1項は、次のとおり定めています。

「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、単純承認若しくは限定承認又は放棄をしなければならない。」

もっとも、同項ただし書により、家庭裁判所は、この期間を伸長することができます。

特に、団信付き不動産や債権者が多く存在する事案では、

・団信の有無の確認
・ローン残高調査
・他の金融機関借入の調査
・保証債務の確認
・賃貸状況や収支の確認
・不動産価値の調査

などに時間を要することが少なくありません。

また、不動産投資案件では、被相続人本人しか把握していなかった借入や保証契約が、後から判明するケースも多くあります。

そのため、3か月以内に十分な調査が終わらない可能性がある場合には、安易に判断するのではなく、家庭裁判所に対して熟慮期間伸長の申立てを行うことを積極的に検討すべきです。

特に、「団信があるから大丈夫だろう。」と考えて調査を怠ると、後から多額の債務が判明し、対応が困難になる危険があります。

8 相続放棄前に財産を処分すると問題になることも

注意すべきなのは、相続放棄前に相続財産を処分すると、単純承認と評価される可能性がある点です。

民法921条1号は、

「相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。」

には単純承認となる旨を定めています。

例えば、

・勝手に不動産を売却する
・家賃を自由に使う
・遺産を処分する

などの行為は、相続放棄が認められなくなるリスクがあります。

団信付き不動産では、ローンが消えたから使ってよいと誤解されるケースもありますが、非常に危険です。

9 まとめ

団信付き不動産がある場合、

・ローンだけ消えるケースがある
・一見すると得に見える
・しかし、他に多額の債務が潜んでいることがある

という点に注意が必要です。

特に、不動産投資案件では、

・団信の有無
・他の借入
・保証債務
・実際の不動産価値

を総合的に調査しなければ、適切な判断はできません。

そのため、団信があるから大丈夫と自己判断せず、必要に応じて熟慮期間伸長の申立てを行いながら、慎重に調査を進めることが重要です。 【参考条文】
・民法915条(相続の承認又は放棄をすべき期間)
・民法921条(法定単純承認)
・民法939条(相続放棄の効力)

コメント

タイトルとURLをコピーしました