1 取引履歴を確認したら不自然な出金があった
相続人の一人が通帳を管理していたため、金融機関から取引履歴を取り寄せてみたところ、
・毎月20万円ずつ現金が引き出されている。
・死亡直前に100万円以上の出金がある。
・施設に入所しているのにATMで頻繁に出金されている。
といった不自然な取引が見つかることがあります。
すると、
・兄が使い込んだのではないか。
・姉が勝手に引き出したのではないか。
と疑問を持つ方も少なくありません。
もっとも、取引履歴に出金の記録があるからといって、直ちに使い込みが認定されるわけではありません。
実際の裁判では、様々な事情を積み重ねながら、
被相続人のために使われたお金ではない、
ということを主張立証していくことになります。
2 出金があるだけでは使い込みとは認定されない
例えば、毎月20万円の出金があったとしても、
・施設利用料
・介護費用
・医療費
・生活費
・被相続人のための買い物
に使われていた可能性があります。
また、
・母から頼まれて引き出した。
・父に現金を渡していた。
という場合もあります。
そのため、
出金がある、
という事実だけで、
使い込みがあった、
と認定されるわけではありません。
問題になるのは、そのお金が実際に何に使われたのかです。
3 まず確認すべきは被相続人の生活状況
この種の事件で重要なのは、当時の被相続人の生活状況です。
例えば、
・介護施設に入所していた
・長期間入院していた
・寝たきりであった
・認知症が進行していた
という事情がある場合には、本人が自由に銀行へ行き、現金を引き出していた可能性は低くなります。
例えば、特別養護老人ホームに入所していた高齢者について、毎月20万円ずつATMから出金されていた場合、
本当に本人が出金したのか、
という疑問が生じます。
そこで、施設の記録や医療記録が重要になることがあります。
4 施設や病院の資料が重要な証拠になる
実務では、金融機関の取引履歴だけではなく、
・施設の入退所記録
・外出記録
・ケース記録
・介護記録
・ケアプラン
・診療録
などを確認することがあります。
例えば、
取引履歴では毎月20万円ずつ現金が引き出されている。
一方で、施設の記録を見ると、
・当時は車椅子生活だった。
・家族以外との外出はなかった。
・認知症が進行していた。
という事実が判明することがあります。
このような資料は、
被相続人自身が出金したとは考えにくい、
という事情を裏付ける重要な証拠となります。
5 通帳やキャッシュカードを管理していたのは誰か
次に重要なのは、預金を管理していた人物です。
例えば、
・長男が通帳を保管していた
・長男がキャッシュカードを管理していた
・長男が銀行手続を担当していた
という事情がある場合には、その長男が出金に関与していた可能性があります。
もっとも、
管理していた、
という事実だけで使い込みが認定されるわけではありません。
しかし、裁判では重要な事情の一つになります。
6 出金額に不自然な変化はないか
出金額の推移も重要です。
例えば、
施設入所前は毎月5万円程度の出金だった。
ところが、施設入所後から毎月20万円ずつ出金されるようになった。
さらに死亡直前には毎月50万円以上の出金が続いていた。
という場合には、
なぜ出金額が急増したのかが問題になります。
裁判所は、そのような変化に合理的な説明があるかどうかを検討します。
7 出金した相続人は説明できるか
裁判になると、
・介護費用に使った
・生活費に使った
・本人から頼まれていた
などの説明がされることがあります。
しかし、本当にそうであれば、
・領収書
・請求書
・施設利用明細
・家計簿
などの資料が残っていることも少なくありません。
そのため、裁判所は、
説明が具体的か。
客観的な資料があるか。
他の証拠と矛盾していないか。
という点を重視します。
8 まとめ
相続人による預金の使い込みが疑われる場合でも、
単に取引履歴に出金があるというだけでは返還請求が認められるわけではありません。
実際には、
・被相続人の身体状況
・施設入所状況
・認知症の有無
・通帳やキャッシュカードの管理者
・出金額の推移
・出金した相続人の説明内容
などを総合的に検討することになります。
特に、被相続人が施設に入所していた場合には、施設の記録や医療記録が重要な証拠になることがあります。
預金の使い込みが疑われる場合には、金融機関の取引履歴だけではなく、施設や病院の資料も含めて早期に証拠を収集することが重要です。


コメント