1 はじめに
親が亡くなった後、
「実家を片付けないといけない。」
と思い、遺品整理を始める方は少なくありません。
しかし、その後になって借金が見つかり、
「相続放棄をしたい。」
と考えたとき、
「家の中を片付けてしまったけど大丈夫だろうか。」
という相談を受けることがあります。
今回は、相続放棄と遺品整理の関係について解説します。
2 相続放棄ができなくなる場合がある
相続放棄は、相続開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所へ申述することで行います。
民法921条1号は、「相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき」を単純承認事由として定めています。
もっとも、相続人が相続財産を処分した場合には、単純承認をしたものとみなされ、相続放棄ができなくなることがあります。
例えば、
・被相続人の自動車を売却した。
・被相続人名義の預金を引き出して使用した。
・被相続人の不動産を売却した。
といった場合です。
そのため、
「実家を片付けた。」
という行為も問題になることがあります。
3 片付けをしたら必ず相続放棄できなくなるのか
結論から言うと、家を片付けたからといって、直ちに相続放棄ができなくなるわけではありません。
相続放棄との関係で問題となるのは、民法921条1号にいう「相続財産の処分」があったかどうかです。
一方で、相続財産の価値を維持したり、管理したりするための「保存行為」にとどまる場合には、通常は単純承認には当たりません。
そのため、家を片付けたというだけで直ちに相続放棄ができなくなるわけではなく、その行為が「処分」に当たるのか、それとも「保存行為」にとどまるのかが重要になります。
⑴ 保存行為と考えられる例
例えば、
・腐敗した食品を廃棄する。
・害虫の発生を防ぐために清掃する。
・雨漏りの応急処置をする。
といった行為は、一般的には保存行為と考えられます。
⑵ 処分行為と評価される可能性がある例
他方で、
・遺品を売却する。
・価値のある財産を廃棄する。
・被相続人名義の自動車を処分する。
といった行為は、処分行為と評価される可能性があります。
4 注意が必要なケース
⑴ 価値のある物を処分した場合
例えば、
・骨董品
・貴金属
・ブランド品
・美術品
・収集品
などを処分した場合には、相続財産の処分と評価される可能性があります。
「不要だと思った。」
という理由だけでは済まないことがあります。
⑵ 遺品を売却した場合
フリマアプリやリサイクルショップを利用して、
・家具
・家電
・貴金属
などを売却した場合には、相続財産を処分したと判断される可能性があります。
特に売却代金を受け取っている場合には注意が必要です。
⑶ 自動車を処分した場合
被相続人名義の自動車を売却したり、廃車手続を行ったりした場合には、相続財産の処分と評価される可能性があります。
⑷ 家財を大量に処分した場合
家の中にある物を一括して廃棄した場合には、その中に現金、預金通帳、有価証券、貴金属その他の価値ある財産が含まれていた可能性が問題になることがあります。
後から、
「実は高価な財産があった。」
ということになると、説明が難しくなる場合があります。
⑸ 仏壇や位牌を処分した場合
仏壇や位牌について相談を受けることがあります。
一般的に、仏壇や位牌は祭祀財産として扱われることが多く、通常の相続財産とは異なる性質を有します。
そのため、老朽化した仏壇を寺院で供養した上で処分した場合であっても、直ちに民法921条1号の「処分」に当たるとは限りません。
もっとも、高価な仏壇や仏具については問題となる可能性もありますし、具体的な事情によって結論が異なることがあります。
相続放棄を検討している場合には、仏壇や位牌であっても、安易に処分せず、事前に専門家へ相談することをお勧めします。
5 私がお勧めする方法
相続放棄を検討しているのであれば、まずは相続財産の調査を行うことをお勧めします。
また、遺品整理を行う場合には、
・処分前に写真を撮る。
・価値が分からない物は残しておく。
・売却はしない。
という点を意識した方が安全です。
特に、相続放棄をするかどうか決める前に遺品を売却することは避けた方がよいでしょう。
6 まとめ
「亡くなった親の家を片付けた。」
というだけで、必ず相続放棄ができなくなるわけではありません。
相続放棄との関係で重要なのは、「家を片付けたかどうか」ではなく、その行為が民法921条1号の「処分」に当たるのか、それとも保存行為にとどまるのかです。
実際には、処分した物の内容や価値、処分の経緯などによって結論が異なることがあります。
「遺品整理をしてしまった。」
「仏壇を処分してしまった。」
「自動車を廃車にしてしまった。」
といった場合でも、直ちに相続放棄ができなくなるとは限りませんので、まずは弁護士にご相談ください。


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