1「相続放棄したのに請求が来た。」は本当に無視してよいのか
親族が亡くなった後、突然、消費者金融やカード会社、知らない業者(以下「債権者等」といいます。)から請求書が届くことがあります。
そのため、「相続放棄したから、もう関係ないですよね?」という相談は非常に多くあります。
結論からいうと、家庭裁判所で相続放棄が受理されていれば、原則として、被相続人の借金を支払う必要はありません。
もっとも、「全部無視してよい。」と単純に考えるのは危険な場合もあります。今回は、相続放棄後に請求が来た場合の基本的な考え方と注意点を説明します。
2 相続放棄とは何か
相続放棄とは、家庭裁判所で手続きを行い、「私は最初から相続人になりません。」という扱いにする制度です。
民法939条は、次のように定めています。
「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。」
つまり、法律上は「最初から相続人ではなかった。」という扱いになります。
そのため、通常は、亡くなった方の借金を支払う義務を負いません。
【出典】民法939条
3 では、なぜ請求が来るのか
理由は単純です。
債権者等は、相続放棄したかどうかを把握していないことが多いからです。
特に、消費者金融、クレジットカード会社、病院、携帯会社、家賃保証会社などは、戸籍上の相続人に対して、とりあえず請求を送ることがあります。
また、相続放棄前に請求書が作成されていた場合、そのまま発送されることもあります。
そのため、相続放棄の手続きを完了していたとしても、請求が来る場合があるのです。
4 本当に無視してよいのか?
⑴ 単なる請求書であっても一定の対応は必要
家庭裁判所で相続放棄が受理されていれば、支払義務はありません。
しかし、前述のとおり、債権者等は、相続放棄がされたことを把握していない場合が多くあります。
そのため、相続放棄申述受理通知書(相続放棄が受理されると家庭裁判所から送付されます。)又は相続放棄申述受理証明書(家庭裁判所に対して申請すれば交付を受けることができます。)の写しを債権者等に対して送付し、「相続放棄済みです。」と通知した方が、トラブルは少なく済みます。
⑵ 裁判所から書類が来た場合は放置は危険
注意が必要なのは、裁判所から、訴状、支払督促、仮差押え関係書類などが届いた場合です。
この場合、相続放棄をしたから放置してよいと考えるのは大変危険です。
なぜなら、適切に対応しなければ、相続放棄の事実が裁判所に共有されないまま、判決等が出る可能性があるからです。
実務上は、答弁書、相続放棄申述受理通知書などを提出し、相続放棄済みであることを明確に主張する対応が必要になります。
5 相続放棄の前後でやってはいけない行動
相続放棄の前後を通じて、次のような行為は注意が必要です。
・借金を自分のお金で返済する
・遺産を勝手に処分する
・預金を自由に使う
・不動産を売却する
などです。
場合によっては、相続を認めたと評価され、相続放棄が認められなくなる可能性があります。
民法921条は、一定の場合に相続放棄ができなくなる旨を定めています。
【出典】民法921条
e-Gov法令検索(民法)
6 実務上かなり多い誤解
かなり多いのが、「家族が払っていたから、自分も払わないといけない。」という誤解です。
しかし、相続放棄をしている以上、原則として、支払義務はありません。
また、「少しだけなら払ってもよいと思った。」というケースは非常に危険です。一部でも弁済をすると、債務を承認したと評価される可能性があるため、安易な対応は避けましょう。
7 まとめ
相続放棄後に請求が来ても、慌てて支払う必要はありません。
もっとも、単なる請求書なのか、裁判所からの書類なのか、既に訴訟化しているのかによって対応は変わります。
特に、裁判所からの書類は放置せず、早めに弁護士に内容の確認をしてもらった方が安全です。
相続は、「知らなかった。」で不利益を受けやすい分野です。
不安がある場合は、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。
相続放棄を適切に行っていれば、過度に不安になる必要はありません。